■真夜中の侵入者 チッ、チッ、チッ …ガチャッ、 隣のドアが開いた音。弟がトイレにでも行くのだろう。 …ぺた、ぺた、 相変わらず間抜けな足音(というのも、弟は歩き方がどこかだらしない)をたてながら、トイレではなくこちらに向かっているようだ。 …ガチャ… ドアがそっと開けられる音。続いて、人の気配。 …ぺた、ぺた、 なるべく音をたてないように歩いているようだ。ベッドの前まで来て、止まった。 一瞬、布団の中に冷たい空気が流れ込んだ。かと思うと自分より一回り小さい体が滑り込んできた。
被りきらない分の布団を引き寄せているところにいきなり声をかけられて、侵入者が小さく、ビクリと体を痙攣させた。 「なんだよ、起きてたんじゃん。起こさないようにこっそり入ってきたのに無駄だったんじゃん。」 パトロールと銘打っては外を元気にちょろちょろと動き回る弟だが、その健康そうなイメージとは裏腹に慢性の冷え性の持ち主だ。 「暖房あるだろ。」 素直に差し出された手を握ってやると、弟は心地よさそうに目を細めた。 「ひゃー!あっっっったけーーー。」 かすれた小声で会話を交わす。人の迷惑を迷惑とも思わない弟が無邪気な笑顔を見せた。絶え間なく、軽く鼻をすすっているところからして、少し風邪気味のようだ。 「………。お前、男のベッドに潜り込んでおいて、何もないなんて思っちゃいないよな?」 予想だにしていなかった事態らしく、声がうわずって視線が泳いでいる。逃亡を図ろうにも、両の手をしっかと握られているこの状況で成功するとも思えない。 「体育だし、それに、えーーと…」 あまりに必死さにおかしくなって、笑いながら言ってやると、弟は気の抜けた声を出した。 「明日もオシゴトだしね。」 やられた!という顔をして、弟が頬を膨らませる。 「…ド変態が。」 さっきまで冷え切っていた弟の手がいつの間にか本来の体温を取り戻していた。すこし握る力を緩めてやっても、払われる気配はなかったので、そのまま握っていた。 間もなく、気持ちよさそうに弟が寝息をたて始めた。 チッ、チッ、チッ うちの犬が、布団に潜り込んでくるのが可愛くてサイバーにもやらせてみました。 |