■ローレライ 「なぁ、ローレライを知っているか?」 「ローレライ?あの、歌で惑わして船を沈めるってやつか?」 「ああ、かつてのオイローパのライン河に由来する水の妖精だ。」 「知ってるよ、ライン河の急流に飲み込まれるのはローレライが歌声で船人を惑わすからだっていうおとぎ話だろ。」 「ライン河のはおとぎ話だ。だがな、本当にローレライっているんだよ。」 「ばーかばかしい。海も川も枯れ果てた今の地球のどこに、ローレライがいるってんだ。砂に飲み込まれたシップなんて、話にも聞いたことないぜ。」 「何も地球にいるとは限らんさ。」 「はっ!宇宙にプカプカ浮いてるとでも?」 「昨週、ついにシュルッセル銀流の出発点と到着点が解明されただろ?」 「あーあ、一ヶ月前に銀流に飲み込まれた大和艦隊第3隊が「奇跡的に発見・保護されたのがきっかけ」ってやつだろ。」 「それに、近ごろ銀流に飲み込まれたり隕石事故で行方不明になったシップが割とすぐ保護されるだろう。」 「レーダーの進歩だな。」 「11月のシップ行方不明は4件、そのうち3日以内に早期発見されたケースが3件。あとの1件は、まぁ、遭難から保護まで普通に2週間くらいだったな。」 「それがどうしたってんだ?今はローレライの話だったんじゃないのか?」 「3日以内に帰ってきたシップのクルーはみんな口を揃えて言うんだよ。不思議な歌声が聞こえてきて、その方向に船を進めたら帰って来れた、ってな。」 「ははっ、流行の集団幻覚同調か?」 「幻覚じゃない。現にシップが発見されたとき、直径1m程度の隕石と一緒にかすかな生命反応が確認された。」 「直径1mの隕石?それだったら肉眼で確認できるんじゃないのか?」 「いや、それが見えんのだと。」 「見えない?」 「隕石はレーダーにも肉眼でも確認されたが、生物らしきものはさっぱり。サーモリサーチだとどうやらヒト型の女のシルエットらしいんだが。」 「つったって、ヒト型だったらスーツと気圧維持装置がいるだろ。そんなデカいもんくっついてたらいくらなんでも…」 「そういったものも確認されていない。肉眼にも、サーチにもだ。だから妖精だって言われてるんだよ。届くはずのない魅惑の歌声、迷った船を導く銀流のローレライだってな。」 「1mの隕石じゃぶつけたって難破なんかしないもんな、まぁよく考えたモンだ。」 「お前も遭難したら素直に歌声のするほうに行くんだぞ。」 |